「移動ド」と「固定ド」は、音階を学ぶ際に使われる二つの異なるソルフェージュ(音名の読み方)システムです。それぞれに特徴とメリットがあります。

固定ド

「固定ド」は、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シという音名が絶対的な音高(C・D・E・F・G・A・B)に対応しています。例えば、どんなキーであっても「ド」は常にC音を指し、「レ」はD音です。このシステムは主に絶対音感の訓練や、楽譜を直接読む際に役立ちます。特にクラシック音楽の教育現場で多く用いられ、楽譜を見て瞬時に音高を理解する能力を養うのに適しています。

移動ド

一方「移動ド」は、音階の機能に基づいて音名を割り当てます。例えば、Cメジャーの「ド」はC音ですが、GメジャーではG音が「ド」となり、キーに応じて音名が変わります。このシステムは相対音感の訓練に有効で、異なる調性の楽曲を移調する際に特に便利です。「移動ド」は音楽の理論や和声進行を理解しやすくするため、ポピュラー音楽やジャズ、教育現場で多く用いられています。

移動ドを使うメリット

「移動ド」の最大のメリットは、音階や和声の機能を直感的に理解できる点です。移動ドでは、すべての音階が同じ形をとるため、異なる調でも同じように読め、音の役割(トニック、ドミナントなど)を視覚的に捉えやすくなります。これにより、メロディーの視覚的理解や暗譜、即興演奏の際に優れた効果を発揮します。

また、移調の際も便利です。例えば、あるメロディーをCからDに移調する場合、移動ドでは同じ音名で歌うことができるため、音楽の構造を保ったまま簡単に移調できます。これに対し、固定ドでは新しい音高を覚え直さなければならず、難易度が上がります。例えば「ドレミの歌」をEbメジャーに移調して歌う時、どちらが自然に歌えるのかを想像してみると分かりやすいかもしれません。

さらに、移動ドは複数の調を学ぶ際に有効です。初心者が多くの調性を学ぶ際、固定ドでは調ごとに新しい音の並びを覚える必要がありますが、移動ドならば一度覚えたメロディーパターンをすべての調に適用できます。この点から、移動ドは初心者や様々なジャンルを演奏する音楽家にとって、効率的な学習方法といえます。

以上のように、「移動ド」と「固定ド」にはそれぞれ異なるメリットがありますが、「移動ド」は音楽の構造の理解やアドリブ演奏、移調などにおいて大きな優位性を持ち、特に相対音感の育成に優れているため、初心者からプロまで幅広く活用されています。

解消された違和感

自分は子供の頃から、自然とメロディーを頭の中で「移動ド」に変換していたクセがありました。それゆえ、学校やその他のレッスンでも「固定ド」で教わるたびに、ずっと違和感を感じていました。バークリー音楽大学で初めて「移動ド」の存在を知った時は、心のモヤモヤが一気に解消され、本当にスッキリしたことを昨日のことのように覚えています(バークリーは「移動ド」を採用しています)。

どんなジャンルの音楽をするにしても、これから音楽を学ぼうとする方は「移動ド」で覚えていくことをお勧めします。

*決して「固定ド」を否定するものではありません。